ZONE「7年振りツアー」に見るこれまでとこれから


2012年の今、かつてZONEだった人たちがZONEとして改めて活動を再開させている状況を見守るにあたり、結局のところ7年前のあの解散というのは、一体何だったんでしょうねっていう話になってしまうのだけど、あれはメンバーの1人が辞めますということから、じゃあ新メンバーを投入することでZONEを継続しましょう、といった結論には至らずそれならもういっそのこと、というような経緯で瓦解したような終わり方になってしまった。と、このように認識しているのだけど、翻ってじゃあ今のZONEはどうなってんの?っていうと、これがたったの2人なわけですよ。2人で動かしてるんですよ。あの7年前に出した結論では、3人という形でのZONEを否定していたのに、今ではそこからさらに減って2人しかいないのにZONEの看板を掲げてやれているんですよね。


もちろん当時の彼女たちにとっては3人でZONEを継続することが困難であり、それならいっそ終わらせてみるというのが最善の解答だったのだろうけど、先月「2012年 ZONE 7年振りツアー『2人になりましたけど…NANIKA?』」の全公演を観てきて思ったのは、ZONEとして成立する上で必要な構成要素って人数的な部分はあまり大きな問題ではなく、至極単純な話ですが、ZONEとしてどうしても歌いたいのだという、強い執念とメッセージを持つメンバーだけが、この先もその看板を背負ってやっていける資格が与えられるのだなと、そんなような事を彼女たち2人のライヴを観ながらぼんやり考えていました。『2人になりましたけど…NANIKA?』ってこの露悪的に開き直ったツアータイトル、ふざけているようだけれどこれ以上ない強気な宣言は実に頼もしくもある。


去年の8月に半ば電撃的かつ無理やり歌詞になぞらえた形での再結成劇は、それ自体がプロジェクト的な意味合いを帯びた事務所イベントとしての色合いが強く、だから彼女たちもかつてZONEだった事を踏まえた再結成ライヴとして求められるパフォーマンスをしっかりこなしつつも、それと並行して3人それぞれがZONEとは異なる、今やりたい・やっていきたい音楽を各ソロコーナーを設けてアピールすることに注力していたりと、当初あの時点では新生ZONEとして「再始動」させるという事は念頭に無かったんじゃないかなと思う。わざわざ同窓会と銘打っていたわけですし。


「震災復興支援」を契機にした期間限定の再結成だったけれど、今年以降もZONEとして活動していく「再始動」という展開になった今、彼女たちが2人でどのようにZONEを更新していきたいのか、そのあたりはまだ今回のツアーからは楽曲的な面も含め、新生ZONEとしての展望具合っていうのはちょっとまだ未知数な感じを受けた。ZONEのバリューを生かした出来る事・やるべき事っていうのは明確にあり、そこを踏まえた上で「震災復興支援」に繋がる活動として振る舞える事をやっていきたい、というそもそもの再結成の核となる部分は見えるんだけど、新生ZONEとして継続するにあたってこの先、新たにZONEとしてやりたいサウンドっていうのが2人の中で定まっているのかどうかっていうのが分からないところなんだよね。

MIYU:ただ、さっきも言いましたけど、やっぱりZONEらしさは大事にしていきたいです。その上で、型にとらわれず色々なZONEを見せていきたい。

−−そのZONEらしさって、自分たちでは何だと思います?

MIYUMAIKO:そこなんですよぉ〜!!!!!!!!!

−−(笑)

MIYU:今回のシングルを作ったときも、みんなで「ZONEらしいね」って話をしていたんですけど、その“ZONEらしさ”が何なのか難しくて…。議題にもなったよね。

−−個人的には“純粋さ”かなぁって思うんですけど…。

MIYUMAIKO:え〜!!! そうなんだぁ!!

MIYU:でも、そういうのがあるのかもしれないよ。自分たちには分からないところで、皆さんが感じている“ZONE”があるのかも。

−−では、新生ZONEとしてどうなっていきたいですか?

MIYU:うーん………でも、昔から「こうなりたいです!!」っていう部分はあまり無かったよね? ZONEって最初は楽器を持ちながら踊っていたので、目指すところが無かった。自分たちで探していくしかなかったんですよね。

ZONE 『treasure of the heart 〜キミとボクの奇跡〜』インタビュー:hotexpress

彼女たちはホントにいい人たちなんで、おそらくこれからも「ZONEらしさ」という呪縛に抗いながらも素直に応えようとしてくれるんだとは思うんですが、その得体の知れない「ZONEらしさ」だけをモチベーションに新生ZONEとしてどこまで展開可能なのか、というかこれってオレ含めこれからのZONEに何を期待したいのかっていうのも問われているのだとも思う。


しかしながら今回のツアー内容はファンが求める、または世間一般が抱くZONEのイメージに応えた素直なセットリストでありアレンジでもあったので、いわゆる再結成なツアーとしては全く申し分のないすごく律儀な内容であったなあというのが、全公演を振り返ってみての雑感です。

  • 2012年 ZONE 7年振りツアー「2人になりましたけど…NANIKA?」
  • ツアーメンバー
    • MIYU(Vo,G)
    • MAIKO(Vo,B)
    • 小暮隼斗(G)
    • 大山賢司(Dr)
    • 鶴田海生(Key)


■証

今回のツアーにおけるセットリストとして、1曲目に相応しい曲って何なのか。色々考えてみたが意外にすんなりと答えが出ない。昨年の再結成ライヴでは1日目にデビュー曲、2日目では代表曲を持ってくるという分かりやすいアプローチだったが、一応今回は新生ZONEとしてのツアーであるので同じような展開は無いだろうと。じゃあなんだろうなと考えていたところに証のイントロ。なるほどのっけから拳突き上げてテンション高めで開始出来る曲となるとこれが相応しいか。もちろん私はといえば微動だにすることなく、ツアー初日の札幌では、上手から登場したMAIKOさんのシースルーなスカートに穏やかではいられませんで、あまり集中して聴けていなかった気がします。あと中盤で「だれのため」と口パクする箇所がありますけど、あれ最近ではすっかりやってくれないのが不満ですね。

夢ノカケラ…

この曲はシングルバージョンとアルバムバージョンがあって、歌い出しサビから始まるのが前者で、前奏が用意されているのが後者。ライヴではアルバムバージョンで歌われる事が多いか。シングルバージョンではなくキラキラしたパッドで奏でられるイントロから、アコースティックギターでザクザク歌い始めるアルバムバージョンの方が好きなので有難い。


ZONEのライヴでは散々歌われてきた曲のひとつだが、今回の2人体制になったことでパート割りに変動があったのはもちろん、ハモった時の声色のコントラストにもずいぶん変化が見られて面白かった。それが顕著に表れていたのが、この曲の中盤ラストにある「ボクが両手でそっとカケラを拾い上げて もう一度信じると」の箇所。MIYUを支えるようにハモるMAIKOの声が力強くてとても逞しく、いつの間にこんな頼り甲斐のある歌声に仕上げていたのかと、MAIKOには色々認識を改めさせられた今回のライヴにおけるハイライトのひとつだった。なるほど「2人になりましたけど…NANIKA?」というハッタリは伊達じゃなかった。

一雫

先ほどの曲とは逆にMAIKOがメインボーカルを務めるこの曲は、柔らかい印象で歌われていた昔と比べてMAIKOの声色も変わっていたので、力強くしっかりと歌われる「一雫」というのはなかなか新鮮であった。MAIKOはZONE解散後、MARIAというバンドを結成してメインボーカルを担当していたのだが、そのバンドではZONE時代とは違う声の出し方で歌おうとするなど、バンドの顔として新たなカラーを打ち出そうと最後まで模索していた印象が強い。


オレのMARIAに対する印象というのは、ひとことで言うならボーカル不在のバンドだった。MAIKOの声に問題があったわけではないのだが、バンドが指向する音と彼女の声がちぐはぐでメインボーカルとしてカラーを打ち立てるには食い合せが悪く、実に不幸なことになっているなと思っていた。彼女の声は楽曲によってより映える場合と埋没してしまう場合がハッキリしており、MARIAの頃のようながむしゃらに歌い上げるのではなく、この「一雫」のようなバラード寄りのサウンドで力強く落ち着いた歌い方のほうが、より声色の存在感が増す傾向にあると思う。

■僕の手紙

これも「夢ノカケラ…」と同じような感想になるのだけど、2人の掛け合い・ハモり方がうまくハマっているというか、結果的にデュオという形態になってしまったけれど、2人で歌われることでよりサウンドとしての響き方が力強いものになり、説得力も増幅されていてとりあえず安心した。楽曲の構成上、2人以上でないと成立しにくいのがZONEナンバーの特徴だと思うのだが、しかし2人という最小構成のバンド体制では今まで以上に誤魔化しが効きにくい、大変面倒くさい仕事に手を出しちゃったんだなあ、などと思いながら聴いていました。まあこの危惧が後に現実のものとなってしまうんですけども。

■For Tomorrow

かつてはTAKAYOがメインボーカルを務め、その後TOMOKAが引き継ぐ形で歌われてきた曲。今回は2人でパートを分担する形で歌っていた。この曲はどちらかと言うと高らかに歌い上げるより、少しドスの利いた声で前任者たちが歌っていたせいか、MAIKOの歌い方がMARIA時代を彷彿とさせる声の出し方でちょっと懐かしく思えたりした。ついこの間までやってたバンドなのにZONEよりも懐かしく思えてしまう感覚。あーそうかオレはZONEをリアルタイムに知らないから、ZONEに対して懐かしいという感覚を抱くことはありえないのだな。


■さらりーまん

このナンバーも前任者と引き継いだ人が「For Tomorrow」同様の形態。町田イズム全開な世界観の歌詞でどちらかと言うと苦手な部類の曲なのだが、MIYUに「君たちは いつでも さらりーまん」となにかグサリと突き付けられるのは嫌いじゃないです。

■ユメノカナタ

「さらりーまん」からなだれ込む形で披露されたのが、新生ZONEとしてリリースされたシングルのカップリング曲。シングルという形で新曲がリリースされたのは7年振り。ツアー前にリリースされてはいたが、まずはライヴで聴いてみたいと思っていたのでどういった曲なのか全く耳にせずツアー初日まで楽しみに取っておいた。そしてMIYUが「皆さんの声が必要です!」と煽り、曲名を叫んだ直後に流れてきたシンセのイントロを聴いた瞬間、思わずわらってしまった。ズルい。これはズルいと。「H・A・N・A・B・I 〜君がいた夏〜」で奏でられる印象的なギターのメロディをそのまま持ってきたような、それでいて「H・A・N・A・B・I 〜君がいた夏〜」の疾走感も併せ持ったナンバーになっていて、この作編曲っぷりは間違いなくha-j氏の仕事だなと聴きながら確信した。


彼は去年の再結成時にリリースされたトリビュートアルバム内に収録された新曲「約束 〜August, 10years later〜」も手掛けており、その時の手法と構成が酷似していたので、これはZONEファンの琴線に触れるであろう要素を詰め込むとこうなる的な、かつて自身がアレンジしてきた曲を解体してみせた彼なりのサービスと配慮が伺える曲となっていた。それにしても思い切り二番煎じだし去年と似たアプローチだし、もうこういう配慮された曲しかないのかよおい、などと言いたくなるも抗うことが出来ず素直に反応してしまう己の不甲斐なさに、皆さんも同様に悔しい思いをされたのではないでしょうか。改めてお察しします。

太陽のKiss(Acoustic arr.) 〜 アルバム(Acoustic arr.)

MCを挟んだ後、スペシャルゲストとしてZONEをデビュー頃から編曲等でサウンドプロデュースしてこられたOcean Bornこと鶴田海生がキーボードとしてゲスト参加。2012年3月3日札幌グランドホテルのバーで、全編アコースティックアレンジで演奏したカクテルショーという形式のディナーライヴを今回のツアーでもやってみたいとのことで、アコースティックギターカホン・キーボードをバックに「H・A・N・A・B・I 〜君がいた夏〜 Ocean Version」や「prayer」などを思い起こさせるアレンジかつ意外な選曲で披露した。赤レンガ倉庫のモーション・ブルー・ヨコハマで開催されたファンクラブイベントでも同形態のコンセプトで演奏していたようなので、おそらく新生ZONEの今後を見据えた新たな活動形態を模索してるのかもしれない。2人で出来る最適なパフォーマンスとしてこういうアコースティックライヴが無理なく可能なのかどうか、今回のこの演奏を聴く限りにおいては不安要素は見られなかった。

■mind 〜 BeaM 〜 新・僕はマグマ (medley)

ここでいったん全員がはけてインターバルを挟み、暗転中の舞台に突如流れてきた「mind」のイントロに、これは全く想定していなかったので驚くと共に、最もテンションが上がってしまった瞬間だった。しかもグッズであるハッピに衣装チェンジしてのダンスパフォーマンス。2012年においてまさかこの曲をこのパフォーマンスで見られるなんて霹靂すぎて、まるで「ぞーんぽた〜じゅ」で披露されたライヴを目の前でスタジオ観覧している錯覚に襲われてこの瞬間はホントに現実感無かった。


https://youtu.be/cf6HEFH-rHk

ただ聴いていくにつれ曲のラスト近くにある「TAKAYO! MAIKO! MIYU! MIZUHO! ZONE!!」とシャウトされるあの箇所が一体どうなるのか、おそらくあの場にいた全員が固唾を飲んで見守っていたはずだが、なんてことはないあっさりとカットされた編集で次の「BeaM」へ…。なるほどメドレー形式だからそういう編集なのねと心を鎮めました。このメドレーではダンスを披露しながら歌っていたのだが、MAIKOのダンスには定評がある事も改めて確認することが出来た。カチッとした振り付けが用意されていた演目ではなかったのだが、腕の角度・上体の所作・指先まで神経が集中していることが分かるキレのある動きが健在で感心してしまった。「BeaM」では観客に向けて指差しする箇所があるのだが、仙台ではわりと近い席で見ていたこともあり、MAIKOから思わぬ指差しレスを頂いてしまったことで今まで味わったことのない何かが貫かれてしまい、レスを求める心理の一端をのぞき込んだ気がした。これを契機に一体どうあるべきなのか、今後の自分の課題とします。

■H・A・N・A・B・I 〜君がいた夏

「H・A・N・A・B・I 〜君がいた夏〜」で幕が開いたライヴ後半戦、ここから「glory colors 〜風のトビラ〜」まで続く4曲は、彼女たちのバンドスタイルとしての側面を窺い知る上で最も適した楽曲であり、ZONEのライヴでは欠かすことが出来ない、ライヴバンドとしての魅力が存分に発揮されるナンバーでもある。まず「H・A・N・A・B・I 〜君がいた夏〜」という曲は、ZONEの楽曲の中でも一際ベースがよく動く躍動感にあふれた曲で、当然ライヴではベーシスト・MAIKOへ視線が集中してしまう。忙しく動く左手と、その間もずっとニコニコと心の底から楽しくて仕方がないといった様子で演奏しているMAIKOの笑顔を交互に見ることが、この曲におけるMAIKOのパフォーマンスを堪能する正しい鑑賞スタイルであり、最も見るべきポイントなのである。そしてZONEとは、彼女たちとは一体何であるかの問いに対する答えもここに示されている。


バンドであるのか、アイドルであるのか、突き付けられる彼女たちは「そのどちらでもあり、どちらでもない」という意味を込めて「バンドル」というニュートラルな在り方を創造し、何であるのかという問い自体が意味を成さないものとして予めこちら側に提示してくれているのだ。だったらもう、受け入れる為のカテゴライズなんてする必要は無い。目の前で楽しそうに楽器と戯れて笑顔を振りまく彼女たちに、何であるかを突き付けたってしょうがない。彼女たちのその笑顔やプレイに呼応する形で去来する、どうしようもない幸福なひとときを素直に享受すればいいのだ。楽しみたいように楽しむこと、それが「バンドル」であるはずだ。


■true blue

なぜこんなに書きまくっているのか。自分でも分けがわからない。さて「true blue」である。とにかくもうそろそろ前奏での英詞部分を歌ってくれることを期待しているのだが、一向に実現されないまま我々は心の中で''What is the reason of my birth reason of my life question of man. What he is What he wants''と繰り返すばかり。暗唱するにそれ程難しい文章ではないはずなのだが。そして鉄腕アトムの主題歌として相応しく考えられた重要なモノローグとして、主題歌たる所以が記されている部分だと思うのだが。なるほどだからこそアニメの主題歌としての色を抑える為に、この部分を削除しているのかもしれない。などとつまらない事を詮索してしまうので何故このパートを歌ってくれないのか説明はやく。

笑顔日和

ここにきてTOMOKAが不在であるという事実にようやく気が付いてしまった。まだZONEが本格復帰を宣言する前に、POWER OF ART PROJECTやイベントなどで3人が揃った際にはよく歌われていた一曲なので、余計にTOMOKAの不在を実感させられる。そしてオレがZONEを認識するキッカケとなった曲でもあるので想いは複雑である。2005年にリリースされたZONEとしての実質ラストシングルであるこの曲は、かつてない程に前向きでアグレッシブに奏でられるサウンドに、今後のバンドとしてのZONEの在り方を示唆する上でターニングポイントと位置づけられる、TOMOKA加入後のZONEとしてもようやく新たなカラーを期待させるような気配と指針がこの曲には内包されていた、というように認識している。これはバンドルがバンドとしてようやくステップアップした、という意味で重要なのではなく、もともと武器であったバンドとしての一面を、より戦えるものとして仕上げてきたという意味で期待があったのだ。


メインボーカルを追いかけるように掛け合うコーラスワークも美しく、今作で初めて作詞を手掛けたというMIYUによる歌詞も、例えば中盤にある「なぜか赤信号は いつもより長くて」を受ける形で「足踏みして 青に変わる その瞬間を心の中で 数えてる」と丁寧に拾い受ける描き方は、作詞初挑戦にしては中々のもので作詞の面でも期待させるものがあった。それぞれの「個」が芽生えるなか、あのまま止まること無く「2005年以降のZONE」というものがあったとすれば…。たられば程詮ない話はない。

■glory colors 〜風のトビラ〜

ライヴレポのつもりだったのが完全に脱線している気がする。この曲に関してはやはり大阪公演での出来事が印象深い。今まで順調に歌ってきたMIYUが、突如として声を詰まらせ思うように歌えないアクシデントに見舞われてしまった。札幌・仙台・東京、そしてツアー4日目にあたる大阪公演でついに体調を崩してしまったようだ。オレは再結成以前のZONEのライヴを見たことがないので、MIYUにかつてこういうトラブルがあったのかは知らないけれど、思うように声をコントロール出来なくなった事に対し、悔しさと苛立ちで苦悶するMIYUの表情というのをかつて一度も見たことがないので、今この場に居合わせてしまっている事の気まずさと同時に、完璧に見えるMIYUでもこういう事があるのかというレアな場面を目撃している状況への興奮とで、以降この日はラストまで落ち着くことは出来なかった。


しかし対照的にこの日のMAIKOは絶好調で、ボロボロになってしまったMIYUをサポートするべくいつもより一層声も大きくなり、MIYUが歌いきれない部分をなんとかカバーしようと存在感をアピールしていた。そして少しでもMIYUが回復するようMCをひとりで多めに喋ることで時間を稼ぐなど、さり気なくサポートする様が健気かつあまりに良い光景すぎて浄化されてしまった。考えてみればツアーに関しては確かにMIYUは7年振りだが、MAIKOはMARIA時代に何度かツアーを経験しているので、実質7年振りで本当に久々であるMIYUの方が体力・精神面からも負担が大きかったのかもしれない。ふとMAIKOもMARIA結成後の1stツアーで声を潰してしまいボロボロだったのを思い出したりした。


secret base 〜君がくれたもの〜

ライヴにおけるこの曲に関する事で言いたいことはひとつだけ。アウトロ部分をフェードアウトで終わるのは本当に、本当にやめて欲しい。収まりが悪すぎてとにかく気持ち悪いのだ。せっかくバンドでライヴをやっているのだから、今後はフェードアウトで終わるシングルバージョンではなく、ひと通り歌い終わった後にアウトロとして延々繰り広げられるあのインスト、あの2分以上にも及ぶメロトロンの洪水とギターサウンドの絡みが堪能出来る、1stアルバム「Z」に収録されているあのアルバムバージョンを是非ライヴで再現してもらいたいのだ。今の彼女たちなら問題なくやりきれるはず。あの2分のインスト箇所にこそこの曲の、アルバム「Z」の音世界が凝縮されているのだから。とにかくもうフェードアウトで終わられる事ほど締まらないものはない。マイケル・フォーチュナティのライヴじゃないんだから。

■一緒にいたかった

この曲について自分の中ではあまり大きく占めるものはなく、ああもうそろそろライヴも終わる頃だなあ、というくらいの印象でしかないナンバーだったのだが、今回5公演を全て観てきた今、あらためて反芻してみると、心のベストテン第1位はこんな曲だったような気がしている。ツアーが終わってからの脳内再生率が異常。「大事なものは何ですか」「幸せなこと何ですか」と問われるたび、暗澹たる気持ちになるんだけどこれ。

■約束 〜August, 10years later〜

考えてみれば去年に再結成を果たした事にも驚いたし、しかもそれを3人でやる事になったのはもっと驚きだったし、そして新曲まで携えてくるっていうのも考えられなかったし、何よりまだ去年の再結成から1年も経っていないのに、もう既にメンバーが1人いなくなっているという事態は、これはもう完全に想定外であった。10年後の8月に戻ってくるのは3人なんだけど、11年後には2人になってるんですよって話信じます?


2人も今回のツアーのMCで「去年は泣いたり、笑ったり、泣いたり、笑ったりと激動の1年だった(笑)」と語っていたが、確かにドラマチックすぎる1年ではあったと思う。しかしながら振り返ってみると、ZONEは常に激動であったようにも思う。主に人事面においては。MAIKOに至ってはこの間、ZONEだけでなくMARIAまで失っているわけだから常に激動に晒されていたと言っても過言ではないだろう。それだけ色々踏まえてきた人生のせいか、もはや2人とも達観した様子で振り返ることが出来ていたし、だからこその今回のツアータイトルなのだろう。そして最悪な事態として、この先さらにどちらかが欠けてしまうような事があったとしても、冒頭でも書いたが、どちらかが1人になっても無茶を承知でZONEの看板を背負って応えようとするのではないか。3人でリリースしたばかりのこの曲を、1年経たずパート割りを変えて歌っている2人を見ていると、頼もしく思うと同時に彼女たちにとってZONEとは「業」であるな、と思いながら聴いていました。南無。

■treasure of the heart 〜キミとボクの奇跡〜

しかしZONEの曲名ってサブタイトル的に「〜」で括られたのが多い。さてこの曲は、再結成後のZONEとしては「約束 〜August, 10years later〜」に続く新曲であり、シングルとしては7年振りにリリースされたタイトルでもある。この「キミ」「ボク」という人称表記はあからさまに町田的であり、これこそがZONEらしさを構成する世界なのだと感じ入るファンも多いのではないかと思う。そういう意味ではZONEファンが思い描く世界観に、彼女たち2人もZONEとして忠実に寄り添う形で応えた曲になっている。サウンドも「secret base 〜君がくれたもの〜」が好きだという向きにアピールされており馴染みやすい。このあたりをサービスだと取るか保守的であると考えるか、よくある話になるわけで、特に再結成等が待望されていた人たちに向けられる、期待に応えるとは何ぞや?という最適解を得る難しさがつきまとう。


去年夏に発表された「約束 〜August, 10years later〜」というのは、ある種のノベルティソングだと思っていて、それは今までリリースしてきたタイトルから曲名を拝借して作詞するといった遊びのある曲で、これは「再結成」や「10年後の8月」といった言わばキーワードとしての物語が前提となって初めて成立するようなケースの曲だと思うので、だからこの曲をして今後のZONEの方向性が云々とか集大成的にどうこうといった話からは無関係でいられる記念盤的楽曲であったのだと思う。当時は再結成は一時的なものであり、活動継続はまだアナウンスされていなかったわけだし。そして活動継続に意欲を見せたいま、このシングルは今後のZONEをあらためて示唆するものになるのか期待が寄せられるわけで、極めて重要な「7年振り」になるのだと思う。今のところはこの曲ってどう?って聞かれるといや嫌いではないし、じゃあ好きなの?ってなると、いやまあ諸手を上げて好きだっていう程では…という難しいところです。いつだって難しいんですよZONEは。難しいのです。

Arigato

ZONEっていつもファン・スタッフ含め周りに感謝の意を述べているよね。それはもうクドいまでに。常に頭を下げている印象がある。Perfumeに匹敵するほど繰り返し「ありがとうございます」と御辞儀するも、それが定型的なものとして嫌味な印象が無いのは素敵な事だと思います。

■Once Again (Zepp DiverCityのみ)

ダブルアンコールって本当に意味が分からない。何なのダブルって。アンコールとはもはやセットリストに予め組み込まれる程に形骸化している昨今、ダブルアンコールこそが真のアンコールだということなのだろうか。分けがわからない。いったい何が真実なのか。誰を信じていけば良いのか。オトナって汚い。だけれど「Once Again」に罪はない。ダブルアンコールありがとうございました。



全公演を見て回るという事自体が初めてで、さすがに何度も観ていくと途中で飽きてくるかも知れないという懸念はあったが、初日から最終日までついて回る事へのモチベーションは下がることなく、札幌ではZONEや観客共に探り探りで緊張している空気があったり、東京のZepp DiverCityでは大舞台でも臆せず乗りきれていたし、観客との距離が一番近くMCでのリラックスしたやり取りが出来た仙台も楽しかったし、MIYUの調子が急変した大阪も、その後の名古屋で観客がMIYUの分まで熱唱するという場面も含め、やはりツアーを回らなければ体感出来ない時間軸というものがあるのだなと、そういう当たり前な事を実感出来たのは良かった。テンプレのようなMC内容も回を重ねるごとに洗練されていくのも面白かった。


ただ、今後継続するにあたってひとつ期待したいのは、今まで何年も「再結成して欲しいアーティスト」にランクインされる程に待望されていたけれど、そういうくすぶっていた待望論にまずは「ピリオド」を打つことを期待したいかなと思う。本来なら去年の再結成イベントが「ZONEを終わらせる儀式」としてはとても最適だったはずなのだけど。新生を標榜するのであれば一度区切っておくというのは重要で、ファンやZONE本人たち含めいつまでも亡霊に囚われているのは健全ではないということだ。自戒を込めて。