タワレコ社長さん4年ぶりの新譜

 Ken Ishii / SUNRISER
http://www.cisco-records.co.jp/cgi/title/techno/detail_180682.php
今回も原点回帰を宣言したアルバムである。4年前の「Future in Light」でも既にそんなような事を言っていたし、その前の「SLEEPING MADNESS」でも本来のケン・イシイが!みたいなことを各メディアで書かれていた記憶がある。実際、今回のアルバムも方向性としては「Future in Light」とさほど大きく外れた感じではないし、PS2の「Rez」に提供した曲によく似たテイストのもあったりする(2曲目の"Let It All Ride"とか)だから大きく路線を変えなかったのは、取り立てて変える必要が無いから、また4年前の「Future in Light」で築いたサウンドと方向性について既に彼の中で自信があったからなのだろう。


「Future in Light」では1曲目の"Awakening"が特に突出していたというか、この1曲のみでアルバムのカラーを決定付けていた印象があるのだけど、今回の「SUNRISER」ではそういうどれか1曲、シングル的な曲として抜きんでているという感じのものは、多分無い。概ね全楽曲が同じトーンで一纏め的に統一されている。って書くと誤解されそうではあるんだけれど、要するに楽曲単位というより所謂アルバム単体として、最初から最後まで一気に聴いて楽しめるように作られているのではないかと思った。95年の「EXTRA」以降のケン・イシイ名義でのアルバムでは、そういうシームレスに聴ける構成って珍しいような気がする。大体アルバムの中に数曲は捨て曲、という言い方はアレだがノリの違うものがあったんだけど、今回は珍しく無いんだよなあ。


http://www.hmv.co.jp/news/newsdetail.asp?newsnum=610190062

この4年間、DJとして世界各国を飛び回る中で、いろいろな国を訪れたり、いろいろな人々と出会ったりしたと思うのですが、それらの経験は今作にどのような影響を与えていますか?

Ken Ishii:各地のクラブシーンでどういったジャンルが調子がいいのかを見てきた上で、テクノは今ひとつ元気がないなと認識、これではいかんと自分が好きな本来のテクノをしっかり作りたいと思うようになったことが一つ。あとはそうやっていろいろプレイしていく中で知り合った、同じ方向を見て同じバイブをもつアーティストと自然な形でコラボレーションするに至ったことが一つ。といったところ。

『SUNRISER』を聴かせていただき、まず思ったのは「ピュアなテクノ」というイメージでした。それは「テクノ」という音楽に対して、多くの人々が抱くであろうメタリックで躍動的なイメージとそのままぴったり当てはまるような気がしたからです。「テクノをこのアルバムでやり切ろうと思った。」とのコメントにもあるよう、「テクノ」に対しての愛情、想いが今まで以上に強く表現されているのはなぜでしょうか?

Ken Ishii:基本的には上で答えたのと同じ。ここにきてテクノに対する危機感とか、あらためてテクノ本来のアイデアリズムみたいなものを感じるようになって来たので。やはり1990年代と違ってここ数年は世界的に音楽シーンがエキサイティングじゃないし、自分が最初にこの音楽で得た刺激とか勇気とかをまた感じたくなったという部分もあるかも。

まさか、10年前のあの空気感をもう一度!っていうことでは無いと思うんだけど、しかし現場レベルでは近頃のテクノってそんなに活気がないものなのかしら…?最近はあんまり繰り出さなくなったので、そういった現場レベルでの空気はよく分からなくなってはいるんだけど。


個人的にいま現在イメージする「テクノらしいテクノ」っていうと、なんとなく且つ好み的なものとして言うと、Kanzleramtな人たちっていうのがイメージとしてあるんだけど、今回のケン・イシイのアルバムも、勿論サウンドの雰囲気や聴かせ方含め諸々違いはあるけど、ストイックかつプリミティブなテクノが鳴っているという点において、わりとKanzleramtと似たところがあるように思った。まあ今回Fabrice Ligと共作していたりするわけなんだけど。


ケン・イシイとしてデビューして以降、色々なモノを背負ってきたというか背負わされてきたというか、いわゆる【テクノゴッド】なんてのがまさに象徴的ですけれど、いろんな側面で「テクノ」に振り回されてきた人だよなあという印象がある。ソニーから距離を置いて自分でレーベルを立ち上げたのも、そういう諸々の背負ってきたモノを一旦リセットしたかったっていうのがあるんじゃないかと思ったり思わなかったり。今回のアルバムはかつてのそういう何か気負わされているような感じは一切なく、実にのびのびとテクノを楽しんでいるアルバムになっており聴いていて愉快です。